【 ハンドルネーム 】:HAL
【 感想 】:
「ガチンコガソリンデイトレ術を読み終えて」

はじめに、私はこれまで沢山の相場書物を読んできました。株式に始まり、指数先物&オプション、商品先物と続き、チャート解説に、フィボナッチ数列、酒田五法、ヘッジファンド関連にタックスヘイブンものまで、入門書と呼ばれているやつは手当り次第に読んでた時期がありました。2002年、約50万円で株式のオンライントレードを始めた頃です。

当時は日経平均が1万円位で、バブル崩壊後の最安値を日々更新している時でして、ニュースでは株式の持ち合い解消&年金の代行返上がいつまで続くのか?ってのが一番の話題でした。どの銘柄を買っても損するものだから「株って空売りしないと儲けられないんじゃ?」って思うようになったのが、色々な本を読むようになった直接の切欠です。

この頃からですね、個人投資家が少しの元手で色々な商品を手軽に取引出来るようになったのは。カバードワラントとか225先物&オプションがネット取引できるようになった時でした。当時の225先物は手数料が1枚(往復)5千円位してました。それでも安いって言われてたんですよね。通信環境も整備されてスピードを競う時代に入ったのもこの頃でした。相場の方では仕手株がまだまだ健在だったので、○○氏関連銘柄なんてのを掲示板でよく見かけたものです。

それで、自身のトレードはと言うと、手当り次第に情報収集した甲斐あって知識はそれなりにありました。が、肝心の取引は全然成果なし、結果が出ないものだからさらに情報収集に走る・・・を繰り返してる状態でしたね。結局、自分自身の力では知識を増やす事は出来たけど、お金を増やす事は全く出来ませんでした。ウンチクだけは一人前なんだけど・・・ってやつですわ。そんな時、某証券会社がデイトレ経験者を対象にディーラーの募集を始めたので、ここは何とかしてプロの世界に潜り込んで、金儲けのコツを掴むしか相場で成功する術はないって思いに至り、必死に食らいついた結果、運良く採用される事が出来ました。しかし、ディーラーにはなれたものの、元々結果の出ない自分でしたから、ここからが本当の試練の日々の始まりだったんですよね。

タロウさんが著書のなかで、自分はチャートは見ませんって言ってますが、プロの世界でも昔のディーリングはまさにその通りでした(今は全く違います)。自分が入社したのは2005年頃なんですが、ディーラーが使用するツールはと言うと、取引所と直で回線が繋がってる端末で板を見ながら、発注専用のPCで注文の操作をして、後は気になる銘柄を登録しておくだけのショッボイ端末が机にあるだけの環境でした。チャートはと言うと、ディーリングルームに1台だけチャートの見れるPCがあって、ディーラー総勢40人ほどなんですが、「チャートを見たい人はこの1台ををみんなで仲良く使ってね」ってだけの環境でした。ある意味、カルチャーショックでしたよ。今まで読んできた解説書は何だったの?でも、当時はこれがプロのやり方だって言われました。「ディーラーはチャートなんか見ない。板情報が全てだ」ってね。

そうなると必ず体得しなければこの世界で生きて行けないのが、板を読む力ですよね。タロウさんが著書で書かれてる板の見方はまさにその一例です。良く言えば基本であり、悪く言えば古典的な板読みです。古典的とは先輩ディーラーが言ってた言い方なんですが、昔から誰もが知ってるんだけど、未だにそれが使えるって意味です。何故でしょう?これは僕の想像なんですが、時代や環境が変わっても人間の心理は不変なのでは?と考えてます。裁量取引の場合は人間の心理状況が時折、板に表れます。何時の時代でも、人は自分の損失は嬉しくないですよね。損失が拡大すると焦ります。パニックになる人もいるでしょう。注文が誰かに先を越されるのも嫌ですよね。そして誰かを出し抜いてでも儲けたいってみんな思ってますよね。他人を出し抜いてまで儲けたいなんて嫌らしい・・・、と言う人はそもそも相場やってないでしょうし。こういう人間の感情って不変だと思います。それが板に表れてくるのがパターン化して古典的な板読みと言われたりするのだと。

自分はこの心理を板に具現化した状況を見抜くのに数年かかりました。かかり過ぎですわ。一人でやってたら多分途中でギブアップしてると思います。だいたい上手いと言われてる人は3ヶ月位でコツを掴んで、高みへと昇って行かれるそうです。しかし、大多数のトレーダーはそうはいきません。情報交換する相手も限られるでしょうし、ネットの情報が正しいとも限らない、成功への一番の近道は稼いでる人のマネをすることなんですが、通常、稼いでる人は他人に結果は見せても、過程は見せないものです。ディーラーも稼いでる人ってのは自分から余りベラベラと話さない人が多かったように思います。同じ職場の仲間同士であってもこうなんですから、ましてや他人、商売目的でやってる書物ともなると、核心部分がまるで見えない物が殆どです。

しかし今回のタロウさんの「ガチンコガソリンデイトレ術」は何をとち狂ったのか、現役の実践書物そのものです。自分のやり方で儲かってない人なら、これ読んだらマネするでしょ?。他人にマネされると通常は自分の取り分が減るので、みんな嫌がります。それを敢えて公表するとは何事でしょう?穿った見方をすれば、2011年現在、TOCOMは参加者激減による流動性不足が一番の問題となってます。この本を公表することで少しでも参加者を増やそうという大いなる使命感からかも知れんなと思ってます。僕自身も2011年の6月からTOCOMに参戦したけど、3ヶ月で早々と撤退してしまったので、タロウさんのTOCOMへの愛情は凄いなと感心してます。

最後にこの本で書かれているガソリンの各限月の関係については僕は検証しておりません。ですが、板読みで書かれている事はガソリンに限らず他の商品(株式も含む)でも今も実際に使えるものだと断言できます。これは僕の考えなんですが、板読みは適度な参加者のいる市場でより有効となる、です。例えば、225先物の板読みが出来る人ってほんの一握りだけです。特に現物とのアービトラージが入ってる時間帯はほぼ無理じゃないかと思います。ディーラーでも大半は出来ません。コイツに挑戦して散って行った人、沢山見てきました。勝ち続ければ伝説の誰々さんとか、○○証券の誰々さんって感じで、話に尾ひれがついたりもして業界で有名になれます。一応、ちゃんとそう言う伝説の人も存在します。ですが、圧倒的大多数の凡人トレーダーはそうはなれないので、局地戦をするしかありません。株で言えば小型株がそうです。先物とのアービトラージもなく、また大型株と比べてアルゴリズムトレードの割合は減り、逆に個人の裁量トレードの割合が増えるので、板読みも古典的と言えども今も使えます。TOCOMではガソリン以外ではプラチナ、とうもろこし、で使えました。僕自身がプラチナとコーンを一番多くトレードしていたので、間違いないです。

逆に現在CMEをやるようになってから気付いたのですが、CMEの原油はこの本で書かれている板読みが必ずしも通用しない場面が多々あります。タロウさんの説明では海外原油(親分)東京原油(子分)東京ガソリン(子供)でした。子分や子供よりも親分の方が世界的には人気があるので、出来高が圧倒的に違います。CMEの原油の主限月は日々の出来高が20万枚以上あります。キリの良い価格に厚い板があったとしても、手前で一旦は止まる場合もあるけど、そうじゃなく一気にそいつをぶち抜いて逆に他のトレーダーのパニックをワザと誘うような動きが見られます。また、超高速の見せ玉どうしの板の攻防もあります。買いに大きな枚数の玉が出ると、その1ティック上でそいつに匹敵するくらいの売り玉が買いをブロックするようなかたちで出てきて、お互い瞬時に消えるってのがあります。しかしこれは余にも高速(0.3秒位)なので、X_TRADERのような取引所と回線が直でつながるようなツールでないと多分見れない。多くのネットトレードのツールはデータが一部間引かれてます。楽天の海外先物板やインヴァストのTOCOMの板を、X_TRADERの板と並べて見比べるとその違いに気づくと思います。そんな0.3秒程で消えてしまうような訳の分からん玉なんか見えなくても良いですよって人もいるでしょうが、一応、取引所へは確かにその手の注文が来ているから一瞬ではあっても表示されている訳で、知らないよりは知っていた方が良いとも言えます。

市場は常に進化してます。トレーダーにとって一番大事なのはテクニックよりも市場の変化に日々対応してゆく事ですよね。ダーウィンの進化論です。2010年頃からアルゴリズムトレードが幅を利かせるようになって、ディーラーの数が激減したとニュースになってました。ディーラーの多くは古典的な板読みで稼いでる人達ですから。それが通用しなくなると当然成績も出ない、結果クビになる。僕がクビになったリーマンショックの時もディーラーの数が減りましたが、その時よりも今の方がより深刻な状態なんじゃないかと思います。

市販されている多くの本は知識を広めるには適するが、実戦で役立つとは限りません。知識やテクニックだけでは稼げないですが、少なくとも負けないようにはなると思います。テクニックは練習すれば必ず身に付きます、負けない術を身につけたらトレーダーとしてスタートラインに立てたと言えるんじゃないでしょうか。「ガチンコガソリンデイトレ術」は負けない術を身につけるものだと思って読まれると、とても役立つと思います。



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